聖パウロ修道会 司祭 山内堅治
実際に住んでみないと伝えられないことというのはたくさんあります。海外での生活はまさにそうでしょう。2016年7月から2019年5月まで、私はベトナムでの召命活動・志願者の養成のためにサイゴン(ホーチミン市)で生活しました。行くまでは、ベトナムの北部、中部、南部を同じように考えていましたが、実際に住んでみると、気候、食べ物、言葉の違いがあることに気づきました。確かに、日本でも東北と九州では温度差、果物の種類、方言の違いがあります。ベトナムでも北部や中部では春夏秋冬の四季があるけれど、南部は雨季と乾季に分かれています。食べ物(麺類)のフォーやブンでも味付け・材料が違うし、ベトナム語の読み方も北部と南部で違ったりします。
さてベトナムでの生活が半年過ぎた2017年1月中旬、ベトナム中部のフエ、ラバンの聖母マリア、フォンニャ渓谷、クワンビン、ハーティン、ゲアンなどを一人のベトナム人の志願者と旅し、旧正月をゲアンで過ごしました。この旅の中で、フォンニャ渓谷でのミサがとても印象に残っています。
フォンニャ渓谷は世界遺産の一つで、洞窟は日本の秋吉台の鍾乳洞に似ています。この町に教会があり、主任司祭が在住する教会は聖パウロにささげられています。また巡回教会が三つあったように思います。主任司祭に挨拶に行きましたら、翌日の朝、フォンニャ渓谷近くの巡回教会で、一人でミサをささげてくれないかと頼まれました。
翌日の朝4時、川沿いの広場に集まる約束をしました。朝の4時はまだ真っ暗。広場で信者さんに会い、小さな渡し船で巡回教会へ出発。バイクで行くこともできますが、途中に橋がなく、相当遠回りをしなければならないので、渡し船が便利とのこと。真っ暗な闇の中、船頭さんが櫂かいを上手に操りながら進んでいきます。途中、ポイントがかすかに見えますが、どこをどう移動しているのか分かりません。ただ船頭さんを信頼するだけです。しばらく下っていくと、日の出を前に、かすかに山や渓谷が見えました。墨絵の世界を連想させてくれました。
20分くらいして渡し船が小さな港に着き、信者さんが数人迎えに来ていました。巡回教会とはいえ、とても立派な教会で、信徒は200名くらい。世界遺産のフォンニャ渓谷がすぐ近くにあり、ここで働く人たちはほとんど信者なのかなあと想像してみました。
ミサは午前5時開始。ベトナムに来て半年ですが、頼りないベトナム語で「ニャン・ザー・チャー・ヴァ・コン・ヴァ・タイン・タン(父と子と聖霊のみ名によって)」と唱えると、信徒たちはちゃんと「アーメン」と応答してくれ、それだけで自信がわいてきました。短い説教を日本語で行い、志願者が通訳してくれました。どれだけ伝わったかよく分かりませんが…。聖体拝領の際には、信徒が200名近くいましたので、けっこう時間がかかりました。
ミサ後、教会の広場でテーブルを広げ、みんなで朝食。ベトナム料理のフォーを準備してくれ、とても温かい気持ちになりました。周囲には貧しい家がたくさん見えました。貧しくても、みんなで食事をし、温かいおもてなしが目に焼き付いています。主の食卓と朝食を共にしながら、さわやかな一日が始まっていきました。