カトリック大阪大司教・枢機卿 前田万葉
2022 年 10 月 11 日から 31 日まで 20 日間、アジア司教協議会(FABC)50 周年総会のため、タイ国のバンコクに行きました。最初の 10 日間は食べ物も美味いし環境も良いし、会議も交流もスムーズで体調も万全でした。「気が付けば鈴虫の鳴くタイ国の」とばかりに元気はつらつ、魚釣りも楽しみました。しかし、後の 10 日間は日ごとに食欲もなくなり体調も悪化して命からがらの帰国となりました。即、病院に行くと明らかに血液の数値まで危険状態でした。こんな困難を乗り越えて海外宣教を務めている皆様方のご苦労は命がけであろうとご察し申し上げます。
タイでは同時にまた、「住めば都」とばかりに笑顔で宣教師として働く一人の日本人修道女に出会いました。タイ・バンコクに住む日本人共同体のミサを頼まれて5人の司教たちで訪問したのです。シスターは、日本人たちのお母さん的存在のようでした。また、現地人たちとの交流も深く、わずか1日の間にいろんな人と場所を精力的に案内してくださいました。体は癌を患っていると聞いていましたが、少しも体調の悪さを表に出しません。次の日にはまた、修道会自体の召命・使命である書籍・聖具販売に FABC 総会会場に来ておられました。
ブラジル移民の父と言われる中村長八神父様の話や、それに続く日本からの宣教師たちの話は聞いてはいたものの、実際の体験がない私には他人事のような印象でした。また、確かに「日本カトリック海外宣教者を支援する会」の「きずな」誌を読んでも、「ああこの方は今、そこにいるのか、外国に行っているのか」くらいの感覚でしか読んでいませんでした。本当に申し訳なく思います。
この度、「きずな」誌の巻頭言を依頼されて、あらためて最近の「きずな」誌を何誌か読ませていただき、気付いたことがあります。たとえば、たわいもないことのようですが、毎回の目次の横には、その季節の花の写真が掲載されています。2022 年6月号には、「紫陽花」でした。日本の6月は紫陽花の季節です。紫陽花公園を訪ねたり新聞テレビで報道されたり、身近な修道院や教会にも咲き始めます。梅雨のうっとうしさを吹き飛ばしてくれます。イエスのカリタス修道会のシスター末吉の巻頭言も、「七変化」(紫陽花の別名)にふさわしい「変わり続けながらも寄り添い同伴する」宣教観を想わせます。
2023 年3月号には椿の花(玉の浦)でした。巻頭言では、聖心侍女会の深沢シスターが、「東ティモール」の治安の安定に触れていました。大変な苦難を乗り越えての、しかもアジアではフィリピンとの2国だけのキリスト教国(カトリック)になった象徴のような「椿」です。「赤椿」は殉教の「象徴」ともいわれています。しかも、白で縁取られた「五島の玉の浦椿」です。偶然かもしれませんが、「赤の殉教(十字架)を経て白の復活を遂げたキリストの受難・十字架と復活を象徴している」かのような椿です。
取り上げればきりがありませんが、海外で働く宣教者たちにとっては、この季節の花の写真だけでも大きな力をいただくのではないかと感じました。
最後に、2022 年 12 月号の神言会司祭のことば、「現在私が住んでいる志願院の神学生たちを含め、 ケニヤ ・ タンザニア、 そしてアフリカで神の呼びかけに答えようと努力している若者たちのために、皆さまのお祈りをよろしくお願いいたします。」を心にとめて、海外で働く宣教者たちにエールを送りお祈りしたいと思います。
感謝と祈りのうちに