「一つの世界」に住んでいる(2021/6/1)

メディカル・ミッション・シスターズ        延江 由 美 子

 2020 年は地球に住む私たちにとって極めて稀な年でした。知人のジャーナリストは、「私たちは今まさに“世界史の現場” にいる」と表現しましたが、その状況は2021 年5月を終ろうとしている今も続いています。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。お一人お一人、きっと様々なことを経験され、また思いを巡らせていらっしゃることでしょう。コロナ禍ゆえの数少ないプラス面は、私たちは「一つの世界」に住んでいるという現実を経験していることではないでしょうか。
ここ数年私はミッショナリーとして、インドとアメリカと日本を定期的に行き来していました。
昨年3 月にはインド北東部に戻る予定でしたが、インドは他の国に先駆けて早々に渡航制限を敷いたので延期を余儀なくされました。まあ5 月頃には出発できるだろう、と呑気に構えているうちに世の中はあっという間に一変し、事態は、インドに行けなくてガッカリ、などという個人的感傷のレベルでは済まされない、もっともっと甚大なスケールの世界的危機に発展していきました。気象変動や自然災害、大規模森林火災、テロや内戦などなど、地球共同体を脅かす出来事があちこちで頻発する昨今、世界が一年先どうなっているかなんてわからないと常々思ってはいたものの、まさか突然、このような形でこれほどの長期間、母国日本に留まることになろうとは全くの予想外でした。
いつだったかインド人のイエズス会士が、「僕にとってミッションとは、今、目の前にある、僕の助けを必要としていることに応えることだよ」と話してくれたことがあります。メディカル・ミッション・シスターズ(MMS)、また看護師の端くれとして、逼迫している日本の医療現場で戦力として働けないのを嘆かわしく思いつつも腹をくくって、自分ができることに日々専念しています。その一つが、MMSとインド北東部についていろいろな形でシェアすることです。お声をかけていただけば躊躇することなく二つ返事でお答えしていますが、毎回準備する過程でこれまで気がつかなかったことがわかったり、新しい事実を知るきっかけになっています。今でも「知られざる」という形容詞がぴったりなインド北東部でMMSが活動を始めてから、去年で50年になりました。多様性が特徴的なインドでも北東部はとりわけユニークな地域です。そこには言語も生活習慣も歴史背景も異なる、実にバラエティーに富んだ130ほどの民族が住んでいて、人々の顔立ちはいわゆる「インド」というイメージからはかけ離れていると言えるでしょう。北東部での奉仕に関わり始めたのが2007年。10年以上経った今も、日々出会う人々の逞しい生きる力や命溢れる子供達の姿に感動し、どこか懐かしい田園風景にほっと気持ちが和らぎます。しかし、そのような豊かさに恵まれる一方で非常に複雑でセンシティブな現実があり、私が見聞きし経験してきたことを日本の方々にお伝えすることの難しさをひしひしと痛感しています。アッサム州とナガランド州にいるシスターたちとはSNSで時々話す機会があります。年の始めに「どんな感じ?」と尋ねると、「もうだいぶ普通になってきてるわ。市場だってフルスイングだし、マスクしている人はほどんどいない」という返事。確かにクリスマスに送られてきた動画では、修道院に村の人たちが集まって(確かに誰もマスクをしていません)大いに踊って歌っていました。
そして2月のはじめのニュースでインドでの感染者が劇的に減少し始めていると伝えられました。一体何がそうさせたのか?ほんとうにインドって不思議ですごい国だなあ、インドに戻れる日も近いかも知れないと思いながら、繰り広げられる議論を興味津々読んだのでした。ところがその後4月になって、インド各地で驚愕する感染爆発が始まりました。感染者も亡くなった人も発表される数字よりはるかに多いことは想像にかたくありません。状況は日を追う毎に酷くなる一方です。「人々の苦しみは想像できる域を超えている」と国連も支援に乗り出しました。2週間ほど前にきた西部マハラシュトラ州・プネに住んでいるシスターからの連絡には「虫のようにどんどん人が亡くなっています。祈ってください。」という一文が。どうぞ皆さまもお祈りの輪に加わっていただけますと大変心強く存じます。今後どんな展開になるのかは相変わらず全く予測できませんし、ましてや世界の有り様がどうなるか誰もわからないでしょう。そんな中だからこそ、神様への信頼のうちにいつもポジティブでいられるよう願い祈っています。
皆様の上に神様の確かなご加護がありますように。